2012年2月22日火曜日。この日はジ・オーバーランド(The Overland)号でメルボルンに移動する。この列車は、オーストラリアの長距離観光列車を運営する"Great Southern Rail"が運行している列車で、メルボルンとアデレードの828kmを10時間ほどかけて運行する。
この列車の起源は、1887年まで遡る。その頃は、"Adelaide Express"あるいは"Melbourne Express"と呼ばれていたらしい。勿論観光列車ではなく、れっきとした都市間特急列車であったと思われる。1926年に"The Overland"と改称され、今に至るという。"Overland"という名称は、"overlander"、平原を移動する冒険家から来ているという。
かつては、寝台車や食堂車、コンパートメントなどで構成された、豪華な編成であったという。一部の車両は、ポートアデレードの鉄道博物館にも展示されていた。しかし、現在は、日中の運行となり、座席車のみの編成であり、食堂車も連結されていない。運行も週3日間のみと、寂しい感じである。
ジ・オーバーランドの乗車券は"Great Southern Rail"の公式WEBから、WEB限定、キャンセル・変更不可という制約付きの割引乗車券を購入していた。クレジットカード手数料や燃料サーチャージなどの諸経費も込みで、AUS$62であった。
"Great Southern Rail"からメールで送られてきたチケットによると、出発1時間前までにチェックインをする必要があるらしい。アデレードを出発するのは7時40分であるから、6時40分には駅に着いている必要がある。列車に乗るのに1時間前に駅にいなくてはならぬというのは解せないが、観光客向けの列車であるから、そういうものなのかもしれぬ。
また、ジ・オーバーランド号は、ホテルの向かいにあるアデレードの中央駅ではなく、郊外のパークランズターミナル(Parklands Terminal)から出発する。地図を見る限り、タクシーで10分くらいだろうが、タクシーがすぐに来るかは分からない。不安であれば前日にフロントで予約しておけばよいのだが、そこら辺はなんとかなるだろうという性格のため、何もしない。
目覚ましを5時20分にかけて眠りにつくが、寝坊したら計画がおじゃんになるので、その不安で、逆になかなか眠れない。ただ、それでも少しは眠ったようで、目を覚ましたら5時であった。二度寝したら起きられなさそうなので、起きて身支度を調える。
5時50分にホテルをチェックアウトする。フロントでタクシーを呼んでもらう。
ほんの2、3分でタクシーが来る。そのタクシーに乗り、パークランズターミナルへ向かう。運転手が、どこへ行くのかと聞いてくる。今日はメルボルンに行き、明日は列車でシドニーへ行くというと、笑っていた。鉄道に乗りにオーストラリアまで来たのかと聞くので、その通りだと答える。
アデレードの感想を聞かれたので、静かで良い街だが、ちょっと物価が高い、バスの初乗りが5ドル近いのはいかがなものかと言うと、全く以てその通りであるとの回答であった。物価の高さは、オーストラリア人も感じているようである。
駅まではタクシーで15分ほどで、6時10分に駅に到着した。代金はメーターでAUS$16.10也。これは日本とほとんど変わらないだろう。
この駅を利用するのは"Great Southern Rail"の列車だけのようである。あまり大きくはない。駅舎はわりと新しめに見える。
入ってすぐのところに、空港と同じようなチェックインカウンターがある。メールで送られてきたバウチャーを見せると、預ける荷物について聞かれる。スーツケースを預ける。バウチャーに引換券がホチキスされる。7時10分に乗車開始との説明を受ける。
荷物の引換券。
駅舎内の待合スペース。
時間が早すぎるせいか、まだ客はほとんどいない。構内にはカフェがあり、ここで朝飯にする。
大きなクロワッサン1つとコーヒーでAUS$9.10だったか。駅構内ということで高めの値段設定なのだろうが、もはやあきらめの境地である。クレジットカードを出すと、手数料を取るとのことであった。現金で支払う。クロワッサンは焼いて、さらにバターとジャムを添えて提供してくれる。美味しいが、腹にはたまらない。
売店が開いたので中を覗いてみる。ザ・ガン(The Ghan)とインディアンパシフィック(Indian Pacific)に関連するグッズは、例えば帽子、Tシャツやトランプ、コップ、キーホルダー、写真集など種々の物が売られていた。しかし、これから乗車するジ・オーバーランドのグッズは売られていない。歴史あるジ・オーバーランドはおまけに過ぎないのかと、いささか残念な感じであるが、何日も走り続けるザ・ガンなどと比べてインパクトが小さいのだろう。車内の売店を期待する。ちなみに、グッズは、物にもよるが比較的安価であった。
2013/2/22:Great Southern Rail:The Overland:Adelaide (Parklands Terminal) → Melbourne (Southern Cross Station)
アデレード7時40分発のメルボルン行き、ジ・オーバーランド(The Overland)号は、7時10分に乗車開始となる。ホームに出る。
乗車前に車両を確認する。先頭はディーゼル機関車である。
その後ろに、"Red"と名付けられた2等車が3両連結されている。ただ、前1両は全てのカーテンが閉じており、客扱いはされていない。2等車の次にカフェテリア。さらに後ろに"Red Premium"と名付けられた1等車が2両連結されている。2等車と1等車の違いは、座席が2+2か1+2かということと、若干の車内サービスにあるらしい。最後尾は荷物車である。チェックインの際に預けた荷物は、ここに置かれることになる。
ジ・オーバーランド号のロゴはエミューである。
奥の線路には、ザ・ガンの車両が停車していた。
車掌による切符の確認を受けて、"Red"の車両に入る。車内には、2+2の配置で座席が並んでいる。転換リクライニングシートで、全席が進行方向を向いている。
シートピッチはそこそこ広い一方で、窓と合っていない座席がある。私の席はギリギリ大丈夫であった。
しかし、右前の席はすぐ横が壁であった。さすがに、その席に指定された老夫婦は、車掌に交渉していた。
私の席は通路側であったが、アデレードでは隣客は来ない。来たら移動しようと思い、窓側に移る。結局、メルボルンまで隣客は来なく、窓側に座っていた。
座席の座り心地はよい。見た目以上にクッションが効いており、体にフィットする。座席の肘置きにはテーブルが収納されている。
背面ポケットには車内誌と売店のメニュー表が入れられてある。
客層だが、老夫婦が多い。あまり混雑しているという風はなく、空席も目立った。
デッキと車内を仕切る戸はない。さらに、車いす対応の大型のトイレのドアは客室側に向いているので、一番前に座っている人はトイレのドアと対面することになる。また、トイレの戸は押しボタン式の自動ドアであり、ロックも分かりづらいからかロックせずに使用している人も多かった。ロックがかかっていないからとトイレのボタンを押し、中の人と外の人がお互いに動揺しているということが、少なくとも2回はあった。
定刻7時40分、メルボルン行きのジ・オーバーランド(The Overland)はアデレード・パークランズターミナルを出発した。
発車してほんの数分で山の中に入る。複線で、列車は進行方向右側の線路を走る。左側は近郊列車の線路である。右側の方が車窓が開けている。海まで見渡すことのできる区間もある。もっとも、まもなく、海も見えなくなる。カーブが多く、最高速度が35kmの区間もある。
ベルエア(Belair)までは近郊列車と線路を共用する。時折、駅もある。ただ、どういうわけか、この日はいっさい近郊列車とはすれ違わなかった。
最初の停車駅であるマウントロフティ(Mount Lofty)に8時29分に到着した。定刻4分遅れである。駅には人が見あたらない。駅周辺には民家が数軒、あとテニスコートが見える。ここで貨物列車と交換する。貨物列車はなかなか長く、最後尾を見送るまでに5分程度かかった。
マウントロフティを8時42分に出発する。しばらくすると、カーブが少なくなり、視界が開ける。
マレーブリッジ(Murray Bridge)には9時49分に停車する。小さな街の小さな駅といった感じである。ここでこの車両に6人乗車する。
今度はひたすら平地を走る。両側の車窓が開けている。直線区間が続いているようで、出発時とは打って変わって元気に走る。
民家はあまりないが、それでも時折集落のようなものが見える。屋根にソーラーパネルが取り付けられた家も多い。
10時頃、ワゴンでのサービスがある。ワゴンを押しているのは2名の車掌である。サンドイッチやクッキー、飲み物が積まれている。
隣の車両がカフェテリアなので行ってみる。"Cafe 828"と名付けられている。"828"は、メルボルンとアデレードの間の距離であろう。
食事スペースも用意されている。
カウンターに、"Scones jam & Cream $4.00"と書かれた紙が貼られていた。これと、ヨーグルトを注文した。スコーンは温められ、クリームチーズがどっさりと付いている。ふかふかで美味しかった。
なお、このカフェテリアでもワゴンでも、グッズは売られていなかった。"The Overland"の名が書かれていたのは、サンドイッチくらいであった。
線路状況は良い区間と悪い区間の差がはっきりとしており、悪い区間はひどく揺れる。特に、サウスオーストラリア州はひどい。数年前に乗車したマレー鉄道の東海岸線もひどかったが、それに比肩するひどさである。とても、いわゆる「先進国」の鉄道とは思えない。ただ、この路線は貨物列車が中心であり、かつ、夏場は高温になるので、保線が追いつかない、あるいは後回しにされるという事情もあるのかもしれない。
ひどく揺れる上、高速で走るから、久々に列車酔いをする。昨晩の睡眠不足もあいまったのかもしれない。
眠りを繰り返しつつ車窓を見て過ごす。車窓は開けており、道路も併行しているが、走る車は少ない。
写真の記録を見る限り、20分から30分に一度程度は起きて写真を撮っていたようであるが、車窓がほとんど変わっていないようにも感じられた。
11時55分、ウォルスレイ(Wolseley)に停車する。ヴィクトリア州に入ったため、時計の針を30分進めるようにとのアナウンスがある。12時25分になる。
13時頃になると体調も回復する。もう行程の半分をすぎている。ヴィクトリア州の方が保線状況はよい。メルボルンに近づくにつれて、揺れが少なくなる。
けだるい時間が過ぎる。最初は停車駅と時刻を逐一ノートにメモしていたが、それも面倒になって、ただぼんやりと車窓を眺めるだけになる。ただ、残っているメモによると、ストーエル(Stawell)という駅には14時59分に到着したらしい。時刻表では14時49分着だから、10分の遅れである。
車内を歩いてみるが、本を読んでいる人もいれば、ウノやトランプをやっている夫婦もいる。のんびりとした雰囲気である。車窓は単調であるが、左右にここまで開けた車窓は、日本では見られないだろう。
16時頃に再び、ワゴンでのサービスが行われる。クッキーを購入する。2つで6ドルであった。ぼろぼろとこぼれやすく、食べにくい。
さらに1時間ほどして、賞味期限間近なのか、車掌がパイを割引で販売する。2ドルであった。
車掌が車内に現れての車内サービスは、このワゴンサービスだけであった。また、販売しているものはドリンクとお菓子、サンドイッチなどの軽食のみで、グッズの類は販売していない。カフェテリアでも、グッズは販売されていない。案外とあっさりしたものである。
メルボルンまであと1時間程度になると、徐々に人工物も目立つようになる。ベッドタウンが構成されているのが分かる。時折、近郊列車とすれ違う。
メルボルンに近づくと、鈍足になる。通勤時間帯なので、前が詰まっているのだろう。
メルボルンのサザンクロス駅には、定刻より5分早く18時45分に到着した。到着ホームは2番線であった。
着いてしまえば、あっという間の10時間であった。沿線の風景は、日本では見ることのできないスケールのものであり、満足した。もっとも、車内サービスはあっさりとしたもので、エンターテイメント性はなく、車窓も単調であることは否定できないから、万人向けとは言い難いだろう。
到着後、荷物を預けた人は荷物車の前に集合となる。これは、到着前の車内放送で案内される。荷物車では、2人の係員が荷物を降ろす。
サザンクロス駅は、メルボルンの中央駅の1つである。
構内には食事をできる店も多い。日本食店もある。
液晶画面の出発案内を見ると、次々に列車が発着することが分かる。
駅の建物は、近年の空港でも見られるような、近代的なガラス張りの建物であった。
駅前からは路面電車も出発する。駅付近は賑わっていた。
【2013/2オーストラリア】(目次)
17,アデレード・メトロ:グレネルグ・トラム(Glenelg tram line):2013/2/21【2013/2オーストラリア】
18,アデレードからメルボルンへ:ジ・オーバーランド(The Overland):2013/2/22【2013/2オーストラリア】【←本記事】
19,メルボルン:イビス・メルボルン・リトルバークストリート(ibis Melbourne Little Bourke St.):2013/2/22【2013/2オーストラリア】