夜行バスというと、一般的には3列独立シートの車両、格安便では4列シートの車両が使われる。中には、東京と徳島を結ぶ海部観光の「マイフローラ」、東京と博多を結ぶ西鉄バス「はかた号」のプレミアムシート、東京と大阪を結ぶJRバス「ドリーム・ルリエ」のプレシャスクラスなどのように、横2列の座席を有する路線もあるが、これらの座席はいずれも、座席を大型にして、リクライニング角度や座席幅、シートピッチで快適さを確保するという方針であった。
その中で、高知県高知市に本社を有する高知駅前観光は、今回、完全にフルフラットになる座席を開発し、2025年3月、その座席を登載したバスを東京~高知間の夜行バス「スマイルライナー」に投入した。フルフラット時は上下2段ベッドの状態となる。座席名は「ソメイユプロフォン」といい、これは「熟睡」を意味するフランス語だという。
「ソメイユプロフォン」は、高知駅前観光のウェブサイトで「フルフラットシート」と紹介されている通り、ベッドではなくあくまで座席という位置づけらしい。着座状態の座席とフルフラット状態の転換も可能だという。この点について、乗りものニュース「国内初「実質“寝台”バス」で横になる! 法令だいじょうぶ? 開発の秘話を聞いた」(2025年3月3日)の記事における高知駅前観光社長のインタビューによると、フルフラットシート自体はもともと法令に違反するものではないこと、ただ、座席への変換機能を設けることで汎用性が高くなること、高速バスに関する法令で「寝台」が想定されていないため、「座席」状態に変更できないとむしろ法律を見たせない懸念があったことが挙げられている。もっとも、座席と寝台の転換は2人がかりでなければできないとのことで、今回の営業運転では最初から最後までフルフラット状態での運行である。
「ソメイユプロフォン」の設計は高知市の「サーマル工房」、製造も高知市の「垣内」と、いずれも高知の企業がかかわっており、「ソメイユプロフォン」を紹介する高知駅前観光の公式ウェブサイトでも、この座席が「メイドインこうち」であることが記されている。上述の通り、既存のバスの車内から座席を取り払ってベッドを設置した、などという簡単なものではなく、安全面の担保、安全基準との兼ね合いもあり、開発には9年近くの時間がかかったという。
また、運行開始のわずか数か月前である2024年11月に、国土交通省が「フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関するガイドライン」を公表した。このガイドラインでは、フルフラット座席に講じることが望ましい安全対策として、座席が前向きに配置されていること、座席の脚部方向を衝撃に耐える転落防止プレート及び衝撃吸収材で覆うこと、頭部及び側面方向に転落防止措置及び保護部材を設けること、2点式座席ベルトが備えられていることが挙げられ、それぞれに理由も記されている。「ソメイユプロフォン」は、このガイドラインにも適合している。
私が乗車した2025年6月時点では、「モニター運行」という位置づけで、週1往復、四国発が月曜日、東京発が火曜日のみの運行であった。東京側では、始発が東京ディズニーランド・バスターミナルウエストで、バスターミナル東京八重洲とバスタ新宿で客扱いを行う。四国側では、始発が桟橋(高知駅前観光本社)で、はりまや橋、高知駅、徳島駅に停車する。運賃は、本運行時には14,000円を予定しているようであるが、モニター運行時は特別価格が適用されておよそ半額の7,300円である。予約・購入は発車オーライネットのみであった。座席の指定をすることはできず、当日運転手から告げられるという。
今回は、乗車3週間前の5月25日に発車オーライネットで予約をした。この時点ではまだ空席は多かったようであるが、乗車当日には満席となった。
2025/6/17:高知駅前観光:スマイルライナー:東京ディズニーランド・バスターミナルウエスト→桟橋(高知駅前観光本社)
2025年6月17日火曜日。高知駅前観光「スマイルライナー」の東京側の始発は東京ディズニーランド・バスターミナルウエストで、夜行バスの出発時刻としては若干早い20時に出発する。東京ディズニーランドを出た後、、バスターミナル東京八重洲、バスタ新宿でも乗車扱いを行うが、始発から乗りたい。
都内から東京メトロ有楽町線で新木場まで向かい、そこで京葉線に乗り換えて舞浜まで向かう。有楽町線は空いていたが、京葉線は帰宅客満載であった。舞浜には19時37分に到着した。
舞浜駅から東京ディズニーランド・バスターミナルウエストまでは徒歩10分程度である。舞浜駅南口を出て、右側、東京ディズニーランド方向へ向かう。
遠目から見るとスイカをくりぬいたもののように見えたゲートをくぐり、さらに進む。
モノレールの東京ディズニーランド駅のすぐ脇には、東京ディズニーランドホテルがある。
さらに進むと駐車場があり、その奥にバスターミナルがある。
東京ディズニーランド・ウエストバスターミナルからは、20時に四国方面行きのバスが2社同時に出発する。25番乗り場が高知駅前観光であったが、その手前にはコトバスエクスプレスの便が停車していた。
本日の車両は日野・セレガ「高知200か279」である。
行先表示は「徳島 高知 スマイルライナー」となっている。
運転手にスマホで乗車券を見せると、本日の座席を教えてくれる。「C1」とのことで、運転手すぐ後ろの上段であった。
出入口を上がると、すのこがある。ここで靴を脱ぎ、備え付けのビニール袋に靴を入れる。車内は土足不可である。この靴は、上段の場合は下段ベッドの下に入れることになる。
車内には2段ベッドが横3列、縦4列並んでおり、計24席である。一般的な3列独立シート車両の座席数が28席であるから、少し少ないという程度である。
まだ空いていたので、車内を見てみる。各座席、寝台時にはシート幅は48cm、長さは180cm、空間は下段が51cm、上段が51~73cmとなっている。シート幅の48cmというのは、3列独立シートの座席では一般的である。各座席にはマットレスが敷かれ、枕と毛布が用意されている。
中央の上段。上半身の部分はカーテンで覆われているので、寝てしまえば他の人の視線が気になることはない。
中央の下段。下段は空間が51cmとのことで、見た目からも圧迫感は感じる。
最後尾から前方を見る。2段ベッドが車内に並んでいる光景は、異質である。通路は、3列独立シートのそれよりもひょっとしたら狭いかもしれない。
最後尾にトイレがある。運転手からは、通路が狭いこともあり、走行中の使用は緊急時のみにしてほしいといった趣旨の案内があった。
出入口のところには、耳栓、歯ブラシセット、おしぼりが置かれていた。また、運転手に言えばアイマスクを借りることもできるという。
はしごを上がり、体をひねりながら自席に入る。席に座るのではなく、席に入るという感じである。
まずは空間であるが、数値的にも、感覚的にも、上段の方が、上への空間にゆとりがある。とはいえ、上段でも胡坐をかくことはできず、いったん席に入ると寝ることしかできない。飲食不可などという案内はなかったが、ペットボトル飲料を飲むことも難しいので、食事は非現実的である。
座席の長さは180cmであり、身長166cmの私には余裕があった。ベッドの先端にはクッションが入っており、衝突時の衝撃を吸収する構造となっていることが分かる。
ただ、座席幅は狭く感じる。数値上は48cmであり、これは3列独立シートのバスとほとんど同じであるから、着座状況であればそこまで窮屈には感じないはずである。おそらく、ベッドと思ってしまうから狭く感じるのであろう。
枕のある付近には、左右共に転落防止措置が施されており、転落することができない構造となっている。ただ、難点は小物入れがないことで、スマホやポケットティッシュなどは枕元に置くしかない。このあたりは、仕切りカーテンに小物入れのポケットを設置してもらえれば足りると思われ、本運行までには何らかの措置が施されるのかもしれない。また、現時点ではコンセントは設置されていない。
寝るときはこのような感じになる。頭の部分は個室感がある。
すぐ上に空調の吹き出し口がある。この辺りは一般的なバスと同じである。
シートベルトは2点式のものが設置されており、運転手からもシートベルトをするようにと案内がある。ちなみに、近時の高速バスでは3点式シートベルトが備わっている例もあり、そちらの方が安全性に優れているとされているが、前述の国土交通省のガイドラインによると、フルフラット座席のバスの場合は、死亡・重症に直結する頸部を肩ベルトが圧迫する恐れがあるため、3点式シートベルトは避けるべきと記されている。
定刻20時に東京ディズニーランド・ウエストを出発した。
次の東京駅までは下道を進む。湾岸道路を有明まで進み、有明で右折して、晴海通りに入る。
東京駅八重洲口向かいにあるバスターミナル東京八重洲には20時48分に到着した。数分待機した後、乗り場に着く。
21時05分にバスターミナル東京八重洲を出発した。内堀通りを進み、半蔵門で左折して新宿通りに入り、バスタ新宿には21時35分に到着した。
バスタ新宿が最後の乗車停留所である。21時45分にバスタ新宿を出発すると、初台南から首都高速中央環状線に入り、大橋JCTで3号渋谷線、東京ICから東名高速道路に入る。最初の休憩場所である海老名SAまでは、車内は照明は点灯したままである。
22時30分、海老名SAに到着した。ここで15分休憩となる。
休憩時には、運転手から番号が書かれたネームプレートを渡される。
のどが渇いたので自販機で飲み物を購入する。車内では飲むのが困難であるため、乗車前に飲む。
22時45分に海老名SAを出発した。数分後に車内は消灯する。
気が付かぬうちに眠りにつき、2回くらい目を覚ましたが、翌朝の淡路島南PAでの休憩までぐっすり眠った。ひとたび眠りに落ちれば、狭さは気にはならない。
2025年6月18日水曜日。
4時45分、淡路島南PAに到着した。ここで15分休憩となる。
フードコートや売店は営業時間外であるが、飲み物は自動販売機で購入できる。
少し霧がかかっている。
徳島駅前には5時34分に到着した。25分の早着である。ここで一定数の客が降りていく。
徳島からは徳島自動車道、高知自動車道で高知まで向かう。昨晩はさほど気にならなかった揺れが気になる。これは、バスではなく路面状況の問題であろう。それでも、いつの間にか眠りに落ち、高知駅に到着する旨の案内で目を覚ますまで、しっかりと眠った。
高知駅バスターミナルには7時35分に到着した。40分の早着である。ここでほとんどの客が降りていく。
はりまや橋観光バスターミナルには7時47分に到着した。ここで数名降りる。
とさでん交通の桟橋車庫付近を通過する。
頭上にはアンケートのQRコードが貼られており、運転手から、アンケートに答えるよう依頼があった。
終点の桟橋(高知駅前観光本社)には、定刻より45分早く、8時に到着した。ここまで乗車した客は2名であった。
夜行バスではいつも比較的よく寝られる方であるが、やはり、完全に横になることができるというのは違う。今回は、夜行バスを降りた時に往々にして感じる疲労感がなかった。
高知駅前観光本社。
桟橋の停留所から、とさでん交通の桟橋通五丁目停留場までは約500m、徒歩8分ほどである。
道中に格安の自動販売機があった。ここでペットボトルの麦茶を購入する。100円也。
大きい通りに出た後、左方向へまっすぐ進むと、桟橋通五丁目停留場がある。
2025/6/18:とさでん交通:桟橋線・駅前線:桟橋通五丁目→高知駅前
桟橋通五丁目停留場から、高知駅前行きの路面電車に乗車する。運賃は230円である。キャッシュレス決済は高知県内の交通系ICカード「ですか」のみが使用可能である。
桟橋通五丁目から20分ほど、8時35分に高知駅に到着した。
朝高知駅に入っているCOCOCHIコーヒーで朝食にする。モーニングのメニューから、高知産柚子を使用している「ノーマルトースト柚子ジャム」を選んだ。700円也。決済はクレジットカードで行った。
トーストとサラダ、ヨーグルト、スープ、コーヒーのセットであった。美味しくいただいた。
【2025/6四国】(目次)
2,東京から高知へ:高知駅前観光「スマイルライナー」:ソメイユプロフォン:2025/6/17【2025/6四国】【←本記事】
<つづく>
【東京~四国間の高速バスの乗車記録】
2,東京から徳島・阿南へ:海部観光「マイ・フローラ」:2023/10/19【2023/10四国】